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投稿日 2023年 11月 28日
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翻訳元記事:https://research.despread.io/institutional-custody/
ここ数年、クリプト産業は急速な発展を遂げ、今や政府や機関投資家が注目する主要産業分野となっています。
2021年9月にFidelity Investmentsによって行われた欧州、アジア、米国の機関投資家1,000人以上を対象に実施した調査によると、81%以上の機関投資家がクリプトをポートフォリオに組み込むべきだと考えていることが分かりました。
特にパンデミック時には、米国連邦政府による量的緩和が市場に流動性を注入し、クリプト領域への資本流入をもたらしました。
この急増は、顧客の資産を保護するサービスであるカストディの必要性を浮き彫りにしました。その結果、セキュリティ、運用、法務に精通した機関投資家向けカストディアンが注目されるようになっています。
しかし、カストディ(自身の資産を第三者に預ける行為)は、クリプト業界では歴史的には否定的に捉えられてきています。
これは、業界の規制が未成熟であること、取引所や機関へのハッキングが多発した歴史といった課題に起因しており、根本的には、セルフ・カストディ(分散化による個人主権の信奉)というWeb3原則との矛盾が指摘されています。このような懸念から、クリプト領域に参入する機関投資家向けカストディアンは、新たなアプローチを必要としていました。
テーラーメイドのカストディ・サービスを提供するカストディアンは現在、業界で極めて重要な役割を果たしています。
伝統的金融においては、カストディとは金融機関(通常は銀行)が顧客の資産を保護するために提供するサービスを指します。しかし、クリプト業界では、カストディは少し異なる意味で使用され、カストディアンは顧客の資産を直接保有するのではなく、その資産へのアクセスを可能にする顧客の秘密鍵を保護します。
そのため、機関投資家向けカストディアンは、ブローカー、ディーラー、取引所と直接やり取りして顧客の資金を取引し、顧客の秘密鍵を保有し、顧客に代わって取引を承認するエンティティとして機能します。
機関投資家向けカストディアンは、クリプト業界に参入する際に、多額の資金を動かす機関が必然的に負うリスクを軽減するのに役立っています。
これらのリスクは、セキュリティリスク、運用リスク、規制リスクに分類することが可能であり、顧客の資金を管理している機関投資家は、すべての資金をセルフカストディで管理することに限界があるため、機関投資家向けカストディへの依存度を高めています。データプロバイダーであるBlockdataが2022年1月に発表したレポートによると、カストディ下にある暗号資産の額は2019年1月から2022年1月にかけて、320億ドルから2230億ドルへと約7倍に増加しました。
・セキュリティ・リスク:秘密鍵の盗難や無許可のシステムアクセスといった脅威が含まれます。
・運用リスク:懸念される領域として、秘密鍵のバックアップの漏洩、安全でない資金移動が含まれます。
・規制リスク:損害保険の補償がないことや、厳格な監査の不足が主要な落とし穴となります。
BinanceやUpbitなどの中央集権的な取引所は、機関投資家向けカストディアンと同様に顧客の資産を保護する役割を果たすことが可能であり、実際に果たしていますが、取引所のハッキング件数が経時的に増加するにつれて、機関投資家が資金を取引所に預ける傾向は低下しています。
その結果、多額の資産を動かす機関投資家は、取引所への依存を下げ、顧客の資産を保護・保全することを第一の目的とする機関投資家向けカストディアンに依存するようになり、監査やセキュリティ管理がより徹底されるようになりました。こうした強みに基づいて、機関投資家向けカストディアンは現在、資金を単独でカストディする能力をまだ持たない機関投資家をクリプトビジネスに引き込む潤滑油として機能しています。
Coinbase Custodyは、米国最大の暗号資産取引所であるCoinbaseが2018年に開始したカストディサービスです。このサービスは、機関投資家向けの取引とカストディを提供するCoinbase Primeの一部です。Coinbase Custodyは大手金融機関をターゲットとしており、金融機関に代わって秘密鍵を保護し、資産管理、手数料徴収、預金管理を通じて収益を上げています。
ニューヨーク州金融サービス局から認可を受け、ニューヨーク州銀行法および米国証券取引委員会(SEC)から規制を受ける有限責任信託会社として、Coinbase Custodyは規制リスクから比較的免れています。2月、SECがカストディアンに対してより厳しい規制を課すと発表した際、Coinbaseはコンプライアンスに準拠した形でカストディアルサービスを提供し続けることができると述べました。
Coinbase Custodyは6月、世界最大の資産運用会社であるBlackRockがビットコインスポットETFを申請する際のカストディアンとなり、話題となりました。データプロバイダーのCryptoQunatによると、BlackRockがビットコインスポットETFの申請を提出した後、Coinbase Custodyのウォレット1つにおけるビットコインの保有量は2,200増加しました。
Coinbaseは2023年第2四半期に、前述のBlackRockとのカストディ契約と機関顧客の増加により、6億6300万ドルの純収益を報告しました。これは前年同期から約10%減少したものの、それでも予想を上回っており、Binanceといった規制問題で苦戦している競合と比較するとかなり印象的でした。
2013年に設立されたBitGoは、マルチシグウォレットとしきい値署名(TSS:Threshold Signature Scheme)を通じて機関ファンドカストディサービスを提供することに特化しています。BitGoはイーサリアムネットワーク上で使用可能なBTCのERC-20ラップトークンであるwBTCの初期のパートナーであり、現在に至るまでwBTCの唯一のカストディアンです。ラップトークン発行の構造的な性質上、ユーザーは原資産を託すカストディアンを信頼しなければならないため、資金が安全かつ透明に保管されていることを顧客に安心させるために、BitGoはプルーフ・オブ・リザーブ(PoR)を提供しています。
BitGOはオンチェーンダッシュボードを通じてPoRを提供し、ユーザーはどれだけの量のwBTCが流通し、BTCがBitGoにロックされているかなどを、リアルタイムで確認することができます。また、ダッシュボードはイーサリアムネットワークのブロックエクスプローラーEtherscanによって相互検証されており、BitGoがダッシュボードを意図的に操作するリスクを軽減しています。
また、どのウォレットにどれだけのBTCが保管されているのか、いつそのウォレットにBTCが出入りしたのかを含め、オンチェーン検証を通じてすべての取引情報を公に利用出来るようにしています。これにより、ユーザーは単にwBTCとBTCの合計額を比較するだけでなく、各取引を検証することができ、BitGoが資金をどのように管理しているかをより透明性の高い方法で確認することが出来ます。
今日、BitGoは機関投資家向けカストディ業界のリーダーであり、50カ国以上で1,500以上の機関ファンドを保有し、ステーキング、DeFiセキュリティ、貸借など、単純な資産カストディにとどまらない幅広いサービスを提供しています。
多様な機関投資家や多額の資本がクリプト業界に流入する中、機関投資家向けカストディアンは、信頼性、安定性、利便性を提供し、業界にとって不可欠な存在となっています。彼らの役割は進化し、現在では顧客の資産保護だけでなく網羅的であり、取引、保険、エスクロー、ステーキング、リサーチにも及んでいます。
さらに、機関投資家向けカストディアンに対する規制が改善され、顧客の需要が高まるにつれ、伝統的金融カストディアンがクリプト業界に参入していっています。米国で最も古い銀行の1つであるBNYメロンは、2022年にクリプトカストディ・プログラムを開始し、大きく報じられました。伝統的金融カストディアンとネイティブ・クリプト・カストディアン間の競争もまた、今後注目する価値があります。
業界が発展し続けるためには、そのインフラに対する信頼が極めて重要です。これは、短い歴史の中で数多くの大惨事を記録してきたクリプト業界にとって特に当てはまります。業界の規模が拡大するにつれて、インフラに対する信頼の確保が重要になってきます。この点で、機関投資家向けカストディアンは、エコシステム内の安全性と信頼を確保することが出来るため、ますます重要になると思われます。
DeSpread Research, Understanding third-party assets, wrapped tokens, 2022 Cointelegraph, Institutional crypto custody: How banks are housing digital assets, 2022 Binance Research, Institutional Custody in Crypto, 2023
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