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投稿日 2024年 09月 06日
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免責事項:本レポートの内容は著者の意見を反映しており、情報提供のみを目的としています。トークンの購入や売却、プロトコルの使用を推奨する意図で書かれたものではありません。本レポートに含まれる内容は投資アドバイスではなく、そのように解釈されるべきではありません。
EthereumなどのProof of Stake(PoS)やその他類似のコンセンサスアルゴリズムを採用するブロックチェーンネットワークでは、ブロック検証プロセスに参加するために、ネイティブトークンを一定量ステーキングすることが求められます。ステーキングは大量の資本を拘束することでネットワークのセキュリティを高めますが、その一方で、ステーキングされた資本は他の用途に使用できなくなるため、資本効率が低下するというトレードオフが発生します。
リキッドステーキングは、このトレードオフを解決するために導入されました。これは、ステーキングされた資産を流動化し、流動性を犠牲にすることなくブロック検証プロセスに参加できるようにするサービスです。リキッドステーキングサービスは通常、以下の機能を提供して、ステーキングされた資産の資本効率を引き出します。
多くのケースで、ブロック検証への参加には、高い参入障壁が存在しています。例えば、Ethereumのバリデーターになるには、32 ETH(約1万ドル以上)の資本投資が必要であり、ソラナのバリデーターは、チェーンの高いスペック要件に対応するための高額なハードウェアコストを負担する必要があります。
リキッドステーキングサービスは、ブロック検証プロセスへの幅広いユーザーの参加を可能にし、チェーンとそのユーザーの両方に利益をもたらします。これには、以下のような利点があります。
2020年12月にローンチされたLido Financeは、特にEthereumエコシステムにおいてリキッドステーキングサービスの先駆者として知られています。2023年4月に通過したEthereum上海アップグレードにより、ビーコンチェーン上でステーキングされたETHの引き出しが可能となり、リキッドステーキングサービスへの関心が再燃しました。市場の回復に伴い、リキッドステーキングサービスを通じてステーキングされたETHの数量は劇的に増加しています。
hildobby氏が作成したDuneダッシュボードによれば、2024年7月末時点で、上海アップグレード通過以後のタイミングで新たに約1580万ETHがステーキングされていることがわかります。この数量は、アップグレード前にステーキングされていた約1360万ETHを上回ります。
Ethereumメインネットが2015年にローンチされたことを考えると、上記の数値は上海アップグレード以降の約15ヶ月間でEthereumステーキングへの需要が急増したことを示唆しています。また、現在のEthereumステーキング総量の約32.6%がリキッドステーキングサービスを通じて処理されており、これらのサービスがオンチェーンエコシステムで重要な役割を果たしていることがわかります。
合計プロトコルTVLの推移, 出典:DeFiLlama
リキッドステーキングカテゴリにおけるTVL推移, 出典:DeFiLlama
リキッドステーキングサービスの急速な成長は、現在すべてのプロトコルのロック総額(TVL)の半分以上を占めていることからも明らかです(DeFiLlama参照)。Lido Financeは、すべてのプロトコルの中で最も高いTVLを誇り、そのTVLは約327億ドルに達しています。
Key Metrics as of August 1, 2024:
2024年8月1日時点の主要指標:
Ethereumにおけるリキッドステーキングサービスの成功は、SolanaやAvalanche、その他IBCベースのチェーンなど、他のチェーンへの採用を促進しています。これらのサービスは無視できない規模のTVLを達成しており、これはリキッドステーキングの有用性を証明しています。Ethereumに次いで、Solanaはリキッドステーキングサービスの運営において2番目に大きなチェーンとなっています。以下はその中でも注目すべきプロトコルとして知られています。
上記のようなデベロップメントは、リキッドステーキングサービスがさまざまなブロックチェーンエコシステムでその影響力を拡大していることを示唆しています。
PoSメカニズムを採用していないネットワークであっても、トークンのロックや、バリデーターへの委任などのプロセスを伴うコンセンサスメカニズムが含まれる場合、リキッドステーキングプロトコルに適した環境を作り出すことができます。Stacksブロックチェーンは、Proof of Transfer(PoX)コンセンサスメカニズムを採用しておりこの条件に適合するチェーンの一つです。
StacksブロックチェーンにおけるPoXアルゴリズムは、マイナー(Miners)とスタッカー(Stackers)の相互作用を特徴としています。マイナーはスタッカーにBitcoin(BTC)を送ることで、Stacksブロックを生成する権利を得て、STX報酬を獲得します。一方、スタッカーは一定量のSTXをロックアップし、BTC報酬を受け取ります。詳細については、以前に公開されたレポート「Stacks — Advancing to the Next Stage Through Nakamoto Release」をご参照ください。
マイナーとスタッカーの役割, 出典:Stacks Docs
当初、スタッカーはSTXトークンのロックアップのみでPoXのプロセスに参加することができましたが、今年後半に予定されているNakamoto Releaseアップグレード以降、スタッカーは署名者としての新しい役割を担うことになります。署名者は、マイナーのターム内に生成されたStacksブロックを検証、保存、署名、および伝播する責任を負います。
スタッキングとステーキング, 出典:Hiro Blog
図に示されているように、StacksにおけるスタッキングプロセスとEthereumにおけるステーキングプロセスは、以下の点で類似しています。
1)両者ともコンセンサスメカニズムに参加するためにトークンのロックアップを伴い、2)どちらも多額のネイティブトークンが必要であり、Nakamoto Release後のStacksではノード運用も要求されることから、参入障壁が高くなっています。
3)また、どちらも一定期間資産をロックする必要があり、引き出し期間が設けられているため、資本効率が悪くなり、リキッドステーキングサービスの必要性が強調されます。
出典: StackingDAO
StackingDAOは、Stacksにおけるスタッキングプロセス向けのリキッドステーキングサービスを提供する分散型アプリケーション(dApp)です。その他のリキッドステーキングサービスと同様に、ユーザーはSTXトークンをStackingDAOにデポジットすることで、スタッキングプロセスに参加し、stSTXと呼ばれるデリバティブトークンを受け取り、約8%(ベース7%)の年利(APY)を享受することができます。
Stacksにおけるスタッキングメカニズムは、Ethereumのステーキングプロセスと類似しており、以下に示すようないくつかの参入障壁を生みだしています:
2週間のサイクルは、ユーザーに対して、サイクルに合わせた資産のロック/アンロックを強制するという点で、ユーザーの利便性を損ないます。さらに、ユーザーがステーキング資産の一部だけをアンロックしたい場合、全額をアンロックしてから残りの部分を再ロックする必要があり、この点でも複雑さが増します。
これらの課題に対処するために、StackingDAOは、スタッキング利回りへの影響を最小限に抑えつつ、参入障壁を低くするための引き出しメカニズムを設計しました。主な特徴は以下の通りです:
このメカニズムの導入により、スタッキングプロセスに関連する時間的制約や不便さが軽減され、ユーザーはスタッキング利回りを維持しながらも、より柔軟に資産にアクセスできるようになります。
Muneeb氏(@muneeb)によるStackingDAOローンチの発表, 出典:X.com
2023年12月のローンチ以後、StackingDAOはユーザーと資本を呼び込むために設計されたポイントシステムを導入し、急速に注目を集めました。このポイントシステムは、stSTXの保有量に基づいてユーザーに日々ポイントを付与し、stSTXのペッグ維持とDeFiプロトコルでの活用を奨励します:
2024年8月21日時点の主要指標:
Stacksエコシステムにおける最初のリキッドステーキングdAppとして、StackingDAOはローンチ直後に約1億2,500万ドルのTVLのピークを達成しました。クリプト市場全体の調整を経てもなお、依然として約8,000万ドルのTVLを維持しており、Stacksエコシステムで最も多くの資本を有するdAppとなっています。
Stacks dApp TVLランキング, 出典:DeFiLlama
Bitflowは、stSTX価格の維持に必要とされるステーブルスワップを提供するプロトコルであり、StackingDAOのローンチとポイントシステムの導入から大きな恩恵を受けています。現在、約1,050万枚のSTXトークンがこのプロトコルに預け入れられており、顕著な成長を見せています。
StackingDAOのTVL(トークンロック総額)は、STXトークンの数量ベースでは、ローンチ以後一貫した上昇傾向を示しています。現在、約5,860万枚のトークンがデポジットされており、これは流通サプライ14億8千万枚の約4%、および現在スタッキングされている4億2,500万枚のSTXトークンの約13%に相当します。このdAppが1年未満であることを考えると、これは非常に大きな数字です。
8月下旬より、Nakamoto Releaseのアクティベーションフェーズが本格的に進むにつれて、スタッカーの役割はStacksブロックを検証する署名者へと移行していきます。この役割は、Proof-of-Stake(PoS)チェーンにおけるバリデーターに類似しています。したがって、Nakamoto Release後のStacksブロックチェーンのセキュリティと分散化を向上させるためには、署名者ネットワークの安定性と多様性を強化することが重要な目標となります。
このような背景の中、StackingDAOは新しい署名者を導入するプロセスを効率化することを目的として、StackingDAO V2を導入しました。このアップデートの主な特徴は、StackingDAOにデポジットされたSTXトークンをStacksブロックチェーン上の新たな署名者に委任し、ネットワークの成長に貢献することです。このアップデートは、当初3月に発表され、Nakamoto Release完了後に実装される予定でしたが、遅延を背景として、2024年5月のインスタンス化フェーズ完了後に署名者セットへの委任が実行されました。
StackingDAO V2は、ユーザーによりデポジットされたSTXトークンを、署名者のパフォーマンスに比例して委任する仕組みを基盤としています。この設計は以下の2つの目標を達成することを目的としています:
StackingDAOにオンボードされた署名者の状況, 出典:StackingDAO
Nakamoto Releaseの本格的なアクティベーションの前段階においても、10の団体(StackingDAOを除く)がすでにStackingDAOの署名者プログラムにオンボードされており、5月以来、これらの署名者に対してSTXのデリゲーションが分配されています。リリース後、StackingDAOを通じた署名者のオンボーディングをさらに拡大させ、署名者ネットワークの多様性が一層向上することが期待されています。
今年初めには、ビットコインエコシステムへの関心が高まる中で、Stacksネットワークは他のプロジェクトと共に大きな注目を集めました。この関心により、ネットワークのTVLは4月に1億8,000万ドルのピークに達し、前年9月の1,000万ドルから18倍に急増しました。
しかし、クリプト市場全体の調整相場に入りに伴い、Stacksエコシステム内でもいくつかの課題が発生しました。これにはNakamoto Releaseのスケジュール変更や、エコシステムの主要な分散型取引所(DEX)であるAlexのハッキング事件が含まれます。このような逆風の中、StackingDAO、Zest、Bitflow、LISAなどの新興プロジェクトはTVLを増加させ、継続的な成長を見せています。Nakamoto Releaseのアップデートは9月までに完了する予定であり、Stacksエコシステムの未来に対する楽観的な見方が再燃しています。
出典:Hiro Blog
Nakamoto Releaseが実現するにつれて、エコシステムがどのように進化していくか、特に最大のTVLを持つリキッドステーキングdAppであるStackingDAOの役割に注目が集まります。StackingDAOがStacks DeFi内で流動性の中心となるまでの道のりは、今後数ヶ月の間に重要な展開となることが期待されます。
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