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投稿日 2025年 04月 10日
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ブロックチェーン技術の急速な発展に伴い、複数チェーンやL2ソリューションが乱立する中で、ユーザーエクスペリエンス(UX)の向上がDeFiエコシステムにとって最重要課題の一つとなっています。
複雑なウォレット管理やチェーンごとのブリッジ、ガス代の調整などを強いられる現状では、いまだ多くのユーザーがBinanceやCoinbaseなどの中央集権型取引所(CEX)を利用し続けているのが実情です。
こうした問題を解決し、DeFiのマスアダプションを促進する鍵として注目されているのが「チェーン抽象化(Chain Abstraction)」という概念です。チェーンの煩雑さをユーザーから隠蔽し、CEXと同程度、あるいはそれ以上にシームレスなオンチェーン体験を提供しようという試みが各地で進んでいます。
本レポートでは、チェーン抽象化技術を推進するプロジェクトとして、KintoとInfinexという二つの事例を取り上げ、以下のポイントを中心に比較・分析を行います。
チェーン抽象化技術が本格的に普及すれば、ブロックチェーン技術の複雑さから解放されたユーザーが増加し、DeFiの大衆採用が大きく前進する可能性があります。本レポートが、チェーン抽象化の全体像を把握し、そのインパクトを評価する一助となれば幸いです。
現在のDeFiエコシステムが広く普及する上で、以下の課題が障壁となっています。
フラグメンテーション(断片化): 無数のブロックチェーン(L1)やレイヤー2(L2)ソリューションが存在し、それぞれが独自のトークン規格、ウォレット、インターフェースを持つため、流動性やユーザー体験が分断されています。
複雑な鍵管理: ユーザー自身による秘密鍵やシードフレーズの管理は、紛失・盗難リスクが伴い、一般ユーザーには大きな負担です。
ガス代の問題: トランザクション毎に必要なガス代(手数料)の支払いは、チェーン固有のネイティブトークンで賄う必要があり、ユーザーは常に複数のトークンを準備・管理しなければなりません。価格変動も悩みの種です。
クロスチェーン操作の煩雑さ: 異なるチェーン間で資産を移動させるには、多くの場合、信頼性やセキュリティに懸念のあるブリッジを利用する必要があり、手順も複雑です。
規制対応の難しさ: 多くのDeFiプロトコルは匿名性を重視するあまり、KYC/AML要件を満たしておらず、機関投資家や規制に準拠する必要があるユーザーの利用を困難にしています。
チェーン抽象化(Chain Abstraction: ChA)は、これらの課題を解決するために登場した概念です。NEAR Protocolは、「チェーン抽象化はブロックチェーン技術をエンドユーザーから見えなくしつつ、その根底にあるすべての利点を保持する」ことを目的としていると説明しています。
具体的には、以下の特徴を持つ技術的アプローチの総称です。
チェーン抽象化と混同されやすい概念に「アカウント抽象化(Account Abstraction: AA)」があります。AhnLab Blockchain Companyは両者を次のように区別しています。
**アカウント抽象化 (AA):**主に単一のブロックチェーン内におけるユーザー体験の向上に焦点を当てます。スマートコントラクトウォレットを活用し、秘密鍵管理の簡素化(ソーシャルリカバリー、パスキー利用など)、ガス代の肩代わり、トランザクションのバッチ処理などを可能にします。ERC-4337などが代表例です。
**チェーン抽象化 (ChA):**複数のブロックチェーンやレイヤー間の相互運用性とシームレスな体験の実現に焦点を当てます。クロスチェーンでの資産移動や通信、状態同期などを円滑にし、ユーザーにチェーンの存在を感じさせない体験を提供することを目指します。
両者は補完関係にあり、多くの場合、優れたチェーン抽象化ソリューションは、アカウント抽象化の機能も内包しています。
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