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投稿日 2025年 05月 08日
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Pectraは、Ethereumの次期大型アップグレードであり、実行レイヤーの「Prague」とコンセンサスレイヤーの「Electra」の名称を組み合わせたものです。
このアップグレードには、Ethereumのアカウント抽象化(AA)を本格的に推進するEIP-7702や、Dencunアップグレードで導入されたBlobのデータ可用性をさらに向上させるEIP-7691などが含まれています。
Dencun(特にEIP-4844、Proto-Danksharding)では、L2専用のデータ領域であるBlobが導入され、L2トランザクションコストの大幅な削減が実現しました。しかし、アカウント管理の複雑さやバリデーター運用の効率性など、Ethereumには依然として改善の余地がありました。
Pectraは、これらの課題に対応し、ユーザー体験の向上、ステーキング効率の改善、そしてL2スケーリングのさらなる強化を目指すものです。
本レポートでは、本日(2025年5月7日)実施予定のEthereumの大型アップグレードPectraについて解説を行います。Pectraの主要なEIPであるEIP-7702、EIP-7251、EIP-7691を中心に、その概要とEthereumエコシステムへの影響範囲について考察します。
直近の大型アップグレードとしては、PoSへの移行を完了させたThe Merge(2022年9月)、そしてL2のトランザクションコストを劇的に削減したDencun(2024年3月)が挙げられます。
Dencunで導入されたEIP-4844(Proto-Danksharding)は、Blobという新たなデータ形式を導入し、L2がL1にデータをポストする際のコストを大幅に引き下げました。これにより、L2のユーザーはより安価な手数料でトランザクションを実行できるようになりました。
Pectraは、Ethereumのロールアップ中心ロードマップをさらに推し進めるとともに、ユーザーとバリデーター双方の体験向上を目指す重要なステップです。
特にアカウント抽象化(EIP-7702)は、Ethereumのユーザビリティを根本から変える可能性を秘めており、またバリデーターの最大有効残高引き上げ(EIP-7251)はステーキングの効率化に寄与します。Blobスループットの増加(EIP-7691)は、Dencunの成果をさらに発展させるものです。
アカウント抽象化(AA)は、EOA(外部所有アカウント)とスマートコントラクトアカウントの機能を統合し、より柔軟でユーザーフレンドリーなアカウント体験を提供することを目指す長年の構想です。
これまでにも、EIP-3074(AUTHおよびAUTHCALLオペコードによるEOAの権限委譲)やERC-4337(プロトコル変更なしのAA実現)といった提案がなされてきました。
引用:Dune
実際に、4337への対応後は、UserOps(トランザクション)数が右肩上がりの増加となっており、アカウントの抽象化がユーザーに受け入れられている兆候が見えます。
しかし、EIP-3074にはセキュリティ上の懸念が指摘され、ERC-4337はオフチェーンのインフラ(BundlerやEntryPointコントラクト)に依存するため、プロトコルネイティブな解決策が求められていました。
EIP-7702は、これらの背景を踏まえ、EOAがトランザクションごとに一時的にスマートコントラクトコードを設定できるようにすることで、より安全かつシームレスなAA体験の実現を目指しています。
引用元:Pectra Mainnet Announcement
Pectraアップグレードは、2025年5月7日に実施されたEthereumのハードフォークのコードネームです。前述の通り、実行レイヤーのアップグレード「Prague」とコンセンサスレイヤーのアップグレード「Electra」から名付けられています。
Pectraは2025年5月7日 10:05:11 UTCに、ビーコンチェーンのエポック 364032でトリガーされました。(ライブストリーミング)
これに先立ち、Hoodi、Holesky、Sepoliaといった主要テストネットで段階的に有効化され、クライアントチームやdApp開発者による十分な検証が行われてきました。
Pectraには、主要なEIPであるEIP-7702、EIP-7251、EIP-7691以外にも、複数の改善提案が含まれています。
EIP | カテゴリ | 概要 |
---|---|---|
EIP-7702 | アカウント抽象化 | EOAアカウントコードの設定。アカウント抽象化を本格的に導入し、ユーザーエクスペリエンスを大幅に向上。 |
EIP-7251 | バリデーター(ステーキング)体験の向上 | MAX_EFFECTIVE_BALANCE の引き上げ。バリデーターの運用効率とステーキング報酬の複利運用を改善。 |
EIP-6110 | バリデーター(ステーキング)体験の向上 | バリデーターデポジットをオンチェーンで供給。新規バリデーターのオンボーディングを高速化 |
EIP-7002 | バリデーター(ステーキング)体験の向上 | 実行レイヤーからトリガー可能なExit。ステーキングプールやカストディサービスの柔軟性とセキュリティを向上 |
EIP-7623 | L2スケーリングとデータ可用性 | コールデータコストの増加。EIP-7691によるBlobスループット増加とのバランスを取り、ネットワーク負荷を管理 |
EIP-7691 | L2スケーリングとデータ可用性 | Blob スループットの増加。L2のデータ可用性を向上させ、トランザクション手数料をさらに削減 |
EIP-2537 | その他コアプロトコル拡張 | BLS12-381曲線操作のプリコンパイルを追加。高度な暗号技術(署名集約、ZK証明など)の効率向上に貢献 |
EIP-2935 | その他コアプロトコル拡張 | ステートに過去のブロックハッシュを保存。スマートコントラクトから過去のブロック情報へのアクセスを容易化 |
EIP-7549 | その他コアプロトコル拡張 | アテステーションの外部にコミッティインデックスを移動。コンセンサスレイヤーの効率化 |
EIP-7685 | その他コアプロトコル拡張 | 汎用実行レイヤーリクエスト。コンセンサスレイヤーと実行レイヤー間の通信を標準化 |
EIP-7840 | その他コアプロトコル拡張 | 実行レイヤー設定ファイルにBlobスケジュールを追加。実行クライアントのBlob処理設定を改善 |
この中には、暗号処理の効率化や、コンセンサスレイヤーと実行レイヤーの連携強化、状態管理の改善などが含まれています。
以下では、特に注目を集めるEIPについて詳細に解説を行います。
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